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Orel イギリス砲塔艦 ”HMS Captain” 後編

いよいよ4月も終わり。模型ファンにとっては1年の総決算となる静岡ホビーショーまで残り半月を切った。ホビーショー併設のモデラーズクラブ合同展示会に向けての準備も大詰め、ついでに本業の方も節目を迎えて大詰めで、ホビーと本業の間をキリキリ舞いしている筆者のお送りする世界のカードモデル情報。本日はウクライナOrel社からリリースされたイギリス砲塔艦 ”HMS Captain”の三回目。

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表紙。三回目にして、ついにクーパー・フィリップ・コールズ設計のHMSキャプテンが竣工だ。
キャプテンはエドワード・リードが設計したHMS モナークで問題となったマストのリギングを避けるため、砲塔の上にもう一段甲板を設けその上にマストが立っていた。この甲板は主砲の爆風を左右へ逃し、マストを守るためでもあっただろう。この上甲板のおかげで「砲甲板に回転砲塔を載せ、船腹を取り払う」というスタイルがよりわかりやすくなった。
乾舷は低く、砲塔が水面にかなり近くなっているが、なぜかHMS ロイヤルソブリンでは装備されていた可倒式の舷側までなくなってしまった。コールズの設計は射撃開始までの時間が短い(リギングを片付ける手間がほとんどない)のがウリなんで、舷側倒す手間も省いて少しでも射撃準備の時間を短縮したかったのかも知れない。

file001.jpg

さらに艦型のわかりやすい写真として、公式フォーラムからキットの試作写真を引用。
砲塔前後部分は射界を確保するために大きく切り欠いてあることがわかる。この部分を凹ませないで逆に膨らまして、前後のケースメート戦闘室に砲を装備すれば19世紀終盤の装甲艦に近いフォルムとなる。

リードのモナーク、コールズのキャプテンを比較するとモナーク約8300トン、キャプテン約7800トンと大きな差はない。しかし、キャプテンの排水量は設計段階では7000トンで、建造中に設計のミスが見つかって排水量が800トンも増えていた。さらに、重心も設計時より高くなっていたという(ただし、これは建造を監督するはずのコールズが病気療養中に現場の錯誤で設計が狂ったとする資料もある)。
武装はどちらも12インチ(30センチ)砲連装砲塔2基。速力はモナークの方が若干早かったが、これはモナークの方が強力な機関を積んでいたためのようだ。

1870年、砲撃性能を確認するためにモナークとキャプテン、比較用に1世代前の砲郭艦「HMS ヘラクレス」の3隻が砲撃試験を行うこととなった。ちなみにヘラクレスの設計もリードだ。
3隻は4~5ノットで前進しながら、沖合に作られた長さ180メートル、高さ18メートルの目標に対し1000ヤード(約914メートル)の距離から5分間の砲撃を行った。
結果は、
ヘラクレス 発射数17発、命中10発(約59%) 発射速度毎分0.65発
モナーク 発射数12発、命中5発(約42%) 発射速度毎分0.40発
キャプテン 発射数11発、命中4発(約36%) 発射速度毎分0.35発
と記録されている。1キロ以内という近距離、攻撃を受けるプレッシャーがない状態とはいえなかなかのスコアだと言えるだろう。特にヘラクレスの発射速度、命中率が突出しているが、ヘラクレスは10インチ(25センチ)砲搭載艦なので単純比較はできない。
モナークとキャプテンのスコアは、仮にキャプテンがもう1発撃って当てていれば全くの同スコアだから大した差はないように見えるが、実際にはそんな単純な話ではなかった。と、いうのもキャプテンの4発命中のうち3発は最初の斉射での命中で、いわゆる「ラッキー・ヒット」だった。キャプテンはその後2斉射分8発撃っているが、この間に1発しか命中していない。実は、キャプテンは最初の斉射で船体が20度もロールし、ほとんど甲板のへりが水中に没するほどであった。当然、2斉射目以降は船体が動揺した状態からの発砲となり命中率は大きく下がった。
それに対しモナーク、ヘラクレスは斉射でも船体は大きくは傾かず、また動揺がおさまるのも早かった。
モナークとキャプテン、果たしてどちらが優れているのか。意見を求められた海峡艦隊司令官、トーマス・シモンズ中将(Thomas Matthew Charles Symonds)は「どっちも素晴らしい! 砲塔艦は敵の旧来の戦列艦なんて全部やっつけちゃうネ!」と判断を保留した。うまいこと責任逃れしたな。

だが、結論はすぐに出た。それも最悪の形で。
1870年9月6日、キャプテンを含む地中海・海峡連合艦隊11隻は堂々戦列を組んで航行中であった。
風は刻々と強さを増しており、夜半には雨を含み暴風雨となる。横風を受ける形になった艦隊は次々に帆を畳んだが、船の動揺は多くなる一方であった。
真夜中過ぎ、ついにキャプテンの傾斜は最大20度に近づいた。
乾舷が低く、重心の高いキャプテンにとって、荒れた海でこの傾斜は致命的であった。
艦長、ヒュー・バーゴイン(Hugh Burgoyne、アメリカ独立戦争で英軍指揮をとったジョン・バーゴインの孫)は最後まで船を救うための命令を出し続けていたが急に傾斜が増し、キャプテンはそのまま転覆した。
船は沈み、500人の乗組員のうち助かったのはわずかに17人。艦長のバーゴイン、そしてキャプテンに乗っていたコールズも艦と運命を共にした。

後に軍で開かれた裁判では、著名な科学者ウィリアム・トムソン(後のケルビン卿)やウィリアム・ランキン(「エネルギー」の概念を提唱した、これまた当時最高ランクの科学者)による検証の結果、キャプテンは安定性が完全に不足しており、傾斜が21度を過ぎた場合転覆する恐れのあることがわかった。ここで先述の砲撃試験の時のことを思い出していただきたい。そう、キャプテンは主砲を側面に指向して全砲が斉射するだけで転覆する可能性があったのだ。
筆者は最初、キャプテンはあまりに乾舷が低くて傾斜で端が水面下に没した砲塔リングから浸水して沈んだのかと思っていたのだが、生存者の証言で「キャプテンは完全に転覆したまま、しばらく浮いていた」とあるので、どうやら浸水するよりも先にひっくり返ったようだ(浸水したのなら、むしろ重心が下がって安定したかもしれない)。
実はキャプテンは7月29日にポーツマス軍港で安定性の試験を受けていた。この結果で許容される傾斜が20度しかないことがわかれば直ちに運用は停止されていたことだろう。しかし、キャプテンは試験結果が出る前に出港してしまっていた。
キャプテンは結局、「この艦は監督部門の意見を無視し、国会議員など、正規ではないルートによる世論の働きかけによって建造されたものであった」と結論づけられた。
いくらその人物の発想が革新的で発言力が大きくとも、専門家でない人間に安全性を任せるようなことはすべきではなかった。
とはいえ、かつて南北戦争でアメリカ海軍に「モニター」が提案された時は「安定性が足りず危険すぎる」として反対した海軍技術者達の反対を設計者ジョン・エリクソンとリンカーン大統領が押し切って建造、結果的に戦史に名前を残す存在となったのだから技術の転換期というのは難しい。
要するに、保守側だろうと革新側だろうと、相手の意見に耳を貸さなければ痛い目を見るということだ。ちょっと偉そうなこと言いました。ごめんなさい。

悲惨な形で自身の正しさが証明されたリードはその後も海軍には戻らず、民間の艦船設計技師となった。
彼が設計した艦の中でも中でもこの項で特筆すべきは日本海軍の発注によって建造された装甲コルベット「金剛」「比叡」そして、装甲艦「扶桑」であろう(3艦とも初代)。
リードは扶桑の回航に際してはわざわざ婦人を伴い来日しており、日本海軍の技術者達に多大なる知識を影響を与えた。
その後リードは議員となり、1906年に心不全で死去している。

悪い意味で黎明期装甲艦の試行錯誤を象徴する艦となってしまったイギリス砲塔艦 ”HMS Captain” は海モノ標準スケールで完成全長約50センチと、かなり小型な船。難易度は3段階評価の「3」(難しい)、そして定価は525ウクライナフリヴニャ(約2000円)となっている。
黎明期装甲艦ファンのモデラーなら、当キットこそ見逃すべきではないだろう。また、Orelから以前にリリースされている装甲艦扶桑のキットと作り比べることで、リードとコールズの設計思想の違いを実感するの興味深い試みとなりそうだ。



画像はOrel社サイト公式フォーラムからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

参考ページ:
https://en.wikipedia.org/wiki/Cowper_Phipps_Coles
https://en.wikipedia.org/wiki/Edward_Reed_(naval_architect)

https://en.wikipedia.org/wiki/HMS_Captain_(1869)
https://en.wikipedia.org/wiki/HMS_Monarch_(1868)

https://ja.wikipedia.org/wiki/扶桑_(甲鉄艦)

http://www.ironclad.saloon.jp/wardroom/Captain&Coles/captainandcoles.htm
装甲艦ファンなら必見、黎明期装甲艦について非常に詳しいサイト、三脚檣 から「『キャプテン』 と コールズ艦長」のページ。キャプテン沈没の詳しい経緯など、詳細な情報が載っている。
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