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Orel 清国装甲砲艦 "金甌"

中断を挟みつつも足掛け3ヶ月をかけた作業部屋の大掃除の終わりが目前に迫り、この規模(棚の奥まで全部ひっくり返す)の大掃除ってのは、自分の過去を整理するということなんだな、なんてセンチメンタルな事を柄にもなく思った筆者が久々にお送りする世界のカードモデル最新情報。今回紹介するのはウクライナOrel社からの新製品、清国装甲砲艦 "金甌"だ。

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中国大陸最後の王朝、清国の軍艦である。それも、定遠、鎮遠みたいな大型艦ではなく、砲艦である。さらに、清国の国産艦である。
思わず「そっちは行き止まりですよ?」と後ろ姿に声をかけたくなるような、細い方へ細い方へと進んでいくアイテムチョイス。まさかこれなら他メーカーとバッティングしないだろう、というもくろみか。
そもそもこの艦、1910年代までは健在だったらしいのにいくら探しても写真が一枚も見つからないという、なんだか実在が疑わしくなってくるようなシロモノ。資料もかなり少ないのだが、なんとか紹介してみよう。

中国の歴代王朝は海洋探索には蛋白で、近世以前の中国が成し遂げた大航海といえば鄭和(1371年 - 1434年)のアフリカ遠征ぐらいのもので、この時鄭和の艦隊は紅海にまで達してキリンとかライオンとか持ち帰って皇帝をビックリさせているが、アフリカを中国(明朝)のものであると宣言したりはしなかった。
鄭和の時代の少し後に西欧は大航海時代に突入して互いに海洋覇権をかけてしのぎを削ることとなるが、その間中国は全然海に出ていく素振りを見せずに大陸に引きこもってしまう。
そんなわけで19世紀ごろには時の王朝である清帝国の海軍技術は西欧列強に対してマジヤバレベルで時代遅れとなっており、1856年のアロー戦争(第二次阿片戦争)では約300隻の清国ジャンク艦隊がたった56隻の英仏連合艦隊相手にダメージを与えられずに壊滅という、ロールプレイングゲームだったら、ははーん、さてはこりゃ負け確定のイベント戦闘だな? と疑ってかかるレベルの大敗を喫する。
この事態を受け、清は近代艦隊の整備に乗り出すが、それを更に加速させたのが新たな勢力による一撃であった。
大日本帝国海軍の勃興である。

1871年、宮古島の島民を乗せた船が沖縄の琉球政府に年貢を納めた(当時宮古島は琉球政府と日本政府に二重支配されていた。なお、琉球はさらに日本と清に二重支配されていた)帰路で遭難。船はなんとか台湾に流れ着いたが漂着した69人のうち54人が台湾先住民族であるパイワン族に殺されてしまうという悲劇が発生した(宮古島島民遭難事件)。日本が清にこの件で賠償を求めると「台湾先住民は清の国民じゃないから(「化外の民」だから)知んね」という仰天の返事を受け取った。そういうこと言うんなら、じゃあ日本軍自ら台湾の連中を懲らしめてやらねばならん、と1874年に日本は台湾出兵を行う。
もちろん、事件にはパイワン族、清国、日本、それぞれの言い分がある。C調と無責任を基本ドクトリンとしている当ブログでは「出兵の正当性」なんていう火中の栗を拾ってアチチとなって水瓶を開けたら潜んでいた蜂に刺されてこりゃたまらんと外に出たら屋根の上から降ってきた臼に押しつぶされるような問題に手を突っ込むつもりは毛頭ない。
とにかく、この一件で清国は「隣の日本が蒸気艦で押し寄せてきて中国大陸に進出するかもしれない」という危機感を感じ、近代艦隊の整備に本気を出すこととなった。

なんだかんだ言っても、清国は大国である。明治維新からまだ10年しか経っていない日本とは資金力の余裕が違う。清は列強各国から小型の装甲艦を買い集め、近代海軍の形を整えていく。
また、これと並行して西洋式の工場建設と国産兵器の開発・製造も進んでいた。
特に上海市、長江河口の長興島にあったアメリカ資本の製鉄所を買い取った、「江南機器製造総局」(後の江南造船)は国から大きな予算を投入され1860年代にはすでに国産ライフルを生産し、1868年には初の国産蒸気船「惠吉號」を建造している。なんとかして「江南スタイル」に話をつなげようと努力したがうまくいかなかったので忘れよう。ちなみにあっちの「江南」はソウルの南にある地区。高いビルがいっぱい建ってる。

この、清国きっての近代工場である江南機器製造総局で建造された、清国初の国産装甲艦、それが今回キット化された「金甌」(きんおう)である。それでは、公式フォーラムの完成見本写真で金甌の姿を見てみよう。

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うーん……どう反応していいのか困るな……
先程「清国初の国産装甲艦」と誇らしげに書いたが、どうやら金甌はより大型の装甲艦を建造するためのドック拡幅中に余ってる部材を組み上げて作った「お試し装甲艦」、いわばチュートリアル艦だったようだ。
上の写真ではわかりにくいが多角形の戦闘室の左側にちょっこっと顔を出しているのが主砲の17センチクルップ砲。「主砲」と言っても武装はこれしかなくって、接近してくる小艦艇は乗員が銃で追い払うことになっていた。
船体前部には衝角が装備されているが、全長32メートル、排水量200トン、最高速度10ノットで何に体当たりするつもりだったのだろう。なお、衝角は砲を積んだことで艦の重心が前に寄りすぎることを防ぐための装備でもあったそうだ。
見ての通り左右に射界は全くないし、もちろん戦闘室が回転したりはしないので左右の照準は船の旋回でつけることを想定していた。砲を左右に動かせないのは小さい船体に17センチの砲を積んだ上に47ミリから60ミリの装甲を貼ったせいで重心が高く、砲を左右に振ったり、ましてはその状態で発砲したら艦がひっくり返る恐れがあったためらしい。
要するに金甌は極初期装甲砲艦である「レンデル砲艦」の一種なのだが、本家イギリスのレンデル砲艦は砲が露天なのに対し、金甌は密閉された戦闘室内に装備されているのが特徴だ。
ちなみに中国語ではレンデル砲艦は「蚊子船」と表記される。これは文字通り昆虫の「カ」に船をなぞらえており、「船体は小さいが、無視できない」ということらしい。

艦名の「金甌」というのは、金の盃のことだが、中国歴代の王朝を指す比喩表現でもある。清国が列強との外交での慣習上必要に迫られて制定した国歌もタイトルは「鞏金甌」(金甌を鞏(かた)めよ)である。また、軍歌や戦中の流行歌に詳しい読者なら「愛国行進曲」(歌い出しは「見よ東海の空明けて」)の中に「金甌無欠、揺ぎなき」という歌詞があったのを思い出すことだろう。
清国海軍もさすがにこの艦名は大げさだと思ったのか、1887年に艦名は「Tianxing」に変更された。と、資料にはあるのだが、この艦名、漢字でどう書くのかわからない(「天津」なら英文スペルは「Tianjin」)。そもそも、中国語で金甌に関する資料はほとんどない(Wikipediaの記事はなぜかロシア語が一番詳しい)。ほんとにこの船実在するんだろうか。

1875年に完成した金甌は当初長江河口部の防衛に使われていたが、後に清はイギリスからより大型のレンデル砲艦を多数購入したために河川砲艦へ任務を変更されたようだ。1884年の清仏戦争の時点ですでに金甌はすでに旧式化しており、大きな戦闘には参加していない。もちろん1894年の日清戦争でも同様だ。
1911年に清朝が辛亥革命で崩壊すると金甌は北洋軍閥の支配下となった。1914年ごろまで艦船リストには記載されているが、その後どうなったのかはわからない。

Orelから発売された、広い意味での「中国」で初めて作られた清国装甲砲艦 "金甌"は小艦艇スケールの100分の1でのリリース。難易度は3段階評価の「2」(普通)、そして定価は237ウクライナフリブニャ(約900円)となっている。もう今世紀中に二度と模型化されそうにないこの船を手に入れる機会を、中国艦船ファンは見逃すべきではないだろう。



画像はOrel社公式フォーラムからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

参考ページ:
https://en.wikipedia.org/wiki/Chinese_ironclad_Tien-sing
https://ru.wikipedia.org/wiki/Канонерская_лодка_«Цзиньоу»
金甌の英語、ロシア語のWikipedia記事。なぜか互いにリンクしていない。

https://en.wikipedia.org/wiki/Imperial_Chinese_Navy
https://ja.wikipedia.org/wiki/宮古島島民遭難事件
https://ja.wikipedia.org/wiki/江南機器製造総局

http://reader.roodo.com/duroyal420/archives/6187495.html
http://reader.roodo.com/duroyal420/archives/6202587.html
台湾の艦船モデラー、jeff5743氏のブログ「浪人大建.模型艦艇誌」から金甌の制作記。jeff5743氏はネルソン、最上などのメジャー艦を作っていたかと思ったら急に日本軍の砲艦「勢多」とか杵埼型給糧艦、清国海軍の「濟遠」「揚威」「超勇」とかも超絶技巧で作っちゃう凄腕モデラー。
ギャラリーのカテゴリーはこちら。「鎮遠1894 」のジオラマは必見。
http://blog.roodo.com/duroyal420/archives/cat_12716.html

このページで映画「ローレライ」の中国語タイトルが「魔女潛艦」なのを初めて知った。カッコ良すぎる。
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