GPM イタリア モニター艦 "FAA DI BRUNO"

「芯材に使うだろう」とお菓子の空き箱をストックし始め幾星霜、使うよりも貯める量の方が圧倒的に多くて作業部屋が空き箱に埋もれつつある筆者がお送りする世界のカードモデル情報。今回紹介するのはポーランドの老舗、GPM社からリリースされた新キット、イタリア モニター艦 "FAA DI BRUNO"だ。

-produkty-285882-kat-498-faa-di-bruno-jpg-1900-1200.jpg

…………なんすか、これ?
これって、あれだろ? 旧式戦車の砲塔を台車に載せた、装甲列車の砲車だろ? ……違うの?

800px-Monitor_Faa_di_Bruno.png

単体では大きさがわかりづらいので、Wikipediaから比較対象として人が一緒に写っている写真を拝借してきた。
でけぇ!
むちゃくちゃテカいぞこいつ!
それもそのはず、この主砲、戦艦の主砲の流用で口径38センチもある。

そもそもこの砲身はイタリア海軍初の超ド級戦艦に搭載するつもりで準備したものだった。
第一次大戦前のイタリア海軍はオーストリア=ハンガリー海軍を仮想敵として軍備を整えていた。三国同盟のことは忘れた。1910年台初頭、イタリアは相手はどうやら35センチ砲を装備した超ド級戦艦(エルザッツ・モナルヒ級)を建造するらしいという情報をキャッチした。当時イタリアで建造していたカイオ・ドゥイリオ級戦艦は30.5センチ砲なので、これはまずい。
そこでイタリアは38センチ砲を装備した「フランチェスコ・カラッチョロ級」を設計する。イギリス海軍のクイーン・エリザベス級戦艦を参考としたこの艦は28ノットの快速と38センチ砲連装x4基の攻撃力を併せ持つ地中海最強の戦艦となるはずだった。
しかし、起工直前に第一次大戦が勃発。しばらく建造は続けたものの、肝心のオーストリア=ハンガリー帝国が引きこもりになってしまったし、資材も不足してたので1916年に建造は中止となる(戦後スクラップ)。そもそも連合側に立てば優勢なイギリス海軍地中海艦隊が味方になるし、同盟側に立てばオーストリア=ハンガリー帝国は友軍なんだから新型戦艦なんて必要なかったんじゃ?

それはさておき、F・カラッチョロ級が中止になったことで先回しに準備しておいた38センチ主砲が余剰となった。
この砲は資料によっては「イギリスから購入した」となっているが、どうやらアームストロングの資本が入っていたポッツオーリ兵器廠でライセンス生産されたものだったようだ(イタリア軍名称「Cannone navale da 381/40」)。
20門以上を整備した38センチ砲は、あとは艦に乗せれば発射できる状態だったんで、もったいないから海軍は何門かを沿岸砲台に転用している。あまりはっきりした資料が見つからなかったが、38センチ砲が配備された事がはっきりしている砲台として、ベネチアの入り口を塞ぐ半島に設置されたアマルフィ砲台がある。この砲台は装甲砲塔(F・カラッチョロ級の砲塔か、新設計のものかは不明)に2門の38センチ砲を備えており、コンクリートの土台部分は現在でも残っている。また、陸軍が7門の38センチ砲を列車砲に改造している。

しかし、地中海の制海権が連合側にある以上、やたらと沿岸砲台を増やしても仕方がない。そこで、海軍は艦砲射撃用に38センチ砲を搭載したモニター艦を建造することとした。うむ、そこまでは問題ない。イギリス海軍も旧式火砲の転用で艦砲射撃用に小さな船体に不釣合いな戦艦主砲塔を載せたモニター艦を建造している。
だが、なぜこうなった。

-produkty-285882-faa-di-bruno-img4753-1-jpg-1900-1200.jpg -produkty-285882-faa-di-bruno-img4716-1-jpg-1900-1200.jpg

写真は公式ページの完成見本。艦首にちっちゃいアンカーがぶら下がっているのがかわいい。
この、見るからに間に合わせの船体はクレーン台船「GA 43」を転用したもの(オーストリア=ハンガリー帝国の河川モニター「ライタ」が退役後に砂利浚渫船になったのと逆のパターン)。防弾のために甲板の上に緩やかな山型に厚さ4センチの装甲を貼り、さらに船体周囲を厚さ2・9メートルのコンクリートで取り巻いている。そこまでやるんだったら、もう新造しちゃった方が早いんじゃないんの?
ところでこの船、救命ボートが一切見当たらないがいいんだろうか。

-produkty-285882-faa-di-bruno-img4703-1-jpg-1900-1200.jpg -produkty-285882-faa-di-bruno-img4715-1-jpg-1900-1200.jpg

砲塔部分にクローズアップ。一見、戦艦の砲塔をそのまま搭載したように見えるが、この砲塔どうやら天井がないらしい。また装甲も11センチしかない。天井がないといろいろとマズいので、トラスの上に丸天井を乗っけたらこんなわけのわからない形になった。だったら、普通に密閉砲塔にしたほうがいろいろ面倒がないと思うのだが、あるいは発射ガスを解決できなかったのかもしれない。砲塔の上の小さい砲は自衛用のヴィッカース40ミリ機関砲。また、主砲砲身は別売りの金属砲身を使用しているようだ。
残念ながら迷彩はあんまりつながっていない。

-produkty-285882-faa-di-bruno-img4730-1-jpg-1900-1200.jpg -produkty-285882-faa-di-bruno-img4735-1-jpg-1900-1200.jpg

エンジンは魚雷艇用に蒸気エンジンが余っていたのを2基搭載し、合計465馬力で最大3.3ノット(公試時)で自力航行する。つまり、戦艦主砲とクレーン台車と魚雷艇エンジンを邪教の館で悪魔合体させたら外道モニター艦が完成したというわけだ。今後ともよろしく。

1917年7月にこの不思議な船は完成し、「ファー・ディ・ブルーノ(Faà di Bruno)」と名付けられる。イタリアの数学者でフランチェスコ・ファー・ディ・ブルーノ(Francesco Faà di Bruno)という人がおり、「ファー・ディ・ブルーノの公式」に名前を残しているが、艦名の由来となったのはフランチェスコの兄で、イタリア独立戦争で戦った海軍軍人のエミリオ・ファー・ディ・ブルーノ(Emilio Faà di Bruno)の方。「リッサ海戦」でオーストリア=ハンガリー海軍の装甲艦「フェルディナント・マックス」に衝角攻撃をぶちかまされて沈んだイタリア海軍装甲艦「レ・ディタリア」の艦長が、このエミリオである(艦と運命を共にした)。

ファー・ディ・ブルーノは1917年8月、第11次イソンゾ戦を支援するためにイギリス軍モニター艦隊と共にオーストリア軍陣地を砲撃したが、あまり効果はなかったようだ。なお、この時は同じ主砲をさらに小さい船体(これもクレーン船台の転用)に1門積んだ、よりやけくそ気味な「アルフレド・カペリーニ(Alfredo Cappellini)」も戦いに参加している。

カッチョいいイギリス軍モニターを見てションボリしたイタリア軍モニター艦隊はイタリアの長靴のふくらはぎ当たりにあるアンコーナ港まで下がってきたが、そこで11月に嵐に遭遇する。
強風に流され浅瀬に座礁したファー・ディ・ブルーノだったが、近くの村マロッタから嵐をついて11人の乙女がボートで漕ぎ着けて温かい食事とワイン、さらにフルーツまでも船員に届けてくれた。彼女達は翌日、嵐が止むまで何度も船と村を往復したという。彼女達には海軍からその勇敢な行為を讃えて1919年8月に勲章が送られ、それを記念した碑は現在もマロッタの村に立っている。

Marotta_targa_11_ragazze_eroiche.jpg

写真はWikipediaより引用。
肝心のファー・ディ・ブルーノはその後しばらくしてから離礁、回航されたが1924年には除籍されている。
しかし、第二次大戦の勃発と共に浮き砲台「GM194」としてジェノア防衛に回された。
1941年2月9日、イギリス艦隊がジェノアに艦砲射撃を加えたが、GM194は英軍の初弾で電源供給ケーブル(たぶん、エンジンを回さないでいいように陸から電力供給していたのだろう)が切断されて反撃できずに終わった。1943年にイタリア降伏に伴いドイツ軍が接収。ドイツ軍は「Biber(ビーバー)」と名付け船体前後を延長して四角い船体を船型にする大改装を行ったようだが、特に使われることなく1945年のドイツ降伏後ほどなくしてスクラップとなった。

イタリア モニター艦 "FAA DI BRUNO"は海モノ標準スケール200分の1で完成全長28センチという意外なほど大柄なキット。難易度は大したディティールがもとからないんで3段階評価の「2」(普通)。そして定価は70ポーランドズロチ(約2300円)。これは、レーザーカット済みのパーツ同梱の価格で、今回は冊子のみの販売は行われないようだ。

-produkty-285882-20170427104046-jpg-1900-1200.jpg

別に大した活躍はしていないが、カタチがオモロい当艦を200分の1というビッグスケールで楽しめる数少ない機会を、イタリア海軍ファン、モニター艦ファンのモデラーは見逃すべきではないだろう。手に入るようなら、PRO-MODEL製の円型砲艦「ノブゴロド」と並べることでトホホ艦を倍増させるのも面白そうだ。



画像はGPM社サイトからの引用。


*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

参考ページ:
https://en.wikipedia.org/wiki/Italian_monitor_Faà_di_Bruno
https://en.wikipedia.org/wiki/Emilio_Faà_di_Bruno
https://en.wikipedia.org/wiki/Cannone_navale_da_381/40
https://en.wikipedia.org/wiki/Francesco_Caracciolo-class_battleship
それぞれのイタリア語版、日本語版も参考とした。当然ながら、イタリア語版が最も詳しい。
スポンサーサイト

テーマ : 模型・プラモデル・フィギュア製作日記
ジャンル : 趣味・実用

展開図公開中
最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
プロフィール

のとっちょ

Author:のとっちょ
カードモデル初心者が苦闘するさまをご覧あれ。

検索フォーム
リンク(順不同、敬称略)
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード