Orel ソビエト衛星追跡船 ”Космонавт Юрий Гагарин”

この間まで暑い暑いとグチっていたのに突然涼しくなった今週。そんな不安定な陽気の中、電車で向かいの席に座った方がビックリするほどブレジネフ書記長に似ていたので、思わず背筋の伸びた筆者がお送りする東欧カードモデル最新情報。今回もモデラーをギャフンと言わせるような驚きの一品を紹介していこう。
本日紹介するのはウクライナOrel社の新製品、ソビエト衛星追跡船「Космонавт Юрий Гагарин」だ。

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ギャフン。

なんだこれは。
地球防衛軍が対ミステリアン戦のために開発したマーカライトファープ搭載戦艦か。
ちょっとこの表紙絵では妙に平らな船が天文台の前に停泊してるだけにも見えるので、早速組み立て見本写真を引用してみよう。

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溢れ出る超兵器感。
大きさのわりにちょっとあっさりしているのは、細部の部品が未組み立てだからだ。
ゲーム「レッド・アラート」に登場してアメリカ軍のテスラコイル砲台とビームをバリバリ撃ちあっても全然違和感のない素晴らしいフォルムだが、実はこれ、ビーム兵器ではない。

どういうわけか当船は開発経緯がはっきりしておらず、詳しい資料がネット上でほとんどみあたらない。
公式には「衛星追跡船」となっており、ソユーズロケットで打ち上げられる人工衛星を追跡するために建造されたようだ。
宇宙開発競争のライバルであったアメリカはこんなオモシロフォルムの船を持っていないが、これは、オーストラリア、ハワイ、日本、ヨーロッパなどの西側諸国の天文台をつないでいけば24時間追跡が可能であるためと思われる。
それに対し、ソビエトはユーラシア大陸外にほとんど同盟国を持たず、地平線の向こうに衛星が沈んでしまうと直接にアンテナを向けることができなくなってしまう。だったら、キューバにミサイル基地なんかじゃなくて天文台を建造してればキューバ危機も起こらなくてみんなハッピーだったのに。
それはともかく、じゃあ天文台がないんならいっそ持って行っちゃえばいいじゃない、ってなわけで、巨大なアンテナを積んだ船が公海上で東側天文台が存在しないエリアでの衛星の追跡を行おう、という意図で建造されたのが当船らしい。資料にあまり詳しいことが書いてないので一部は筆者の想像だ。
ちなみに中国も国外に協力可能な天文台を持っていないので、よく似たスタイルの衛星追跡船、「遠望1号」から「遠望6号」を保有している。こちらはニュージーランドに寄稿した遠望2号の写真。パラボラがちょっと小さめ。

当船、「Космонавт Юрий Гагарин」が完成したのは1971年。月へのレースはすでにアメリカの勝利で終わっていたが、この年ソビエトは長期宇宙滞在用モジュール、すなわち世界初の宇宙ステーションとなる「サリュート」を打ち上げており、まだまだ衛星追跡船がやる仕事はたくさん残っていた。
船の名前の「Космонавт Юрий Гагарин」はカナ表記で「コスモノート ユーリ・ガガーリン」、もちろん人類初の宇宙飛行士、ユーリ・ガガーリンにちなんだ名前で、「コスモノート」というのは、そのノートに本名と乗組ロケットの名前を書くと必ず宇宙旅行をさせられてしまうという宇宙死神が持つ呪いのノートのことではなく、ロシア語で宇宙飛行士のことだ。資料が少ないとこういう駄ネタが多くなるものだ。
ソビエトは当船に先立ち1967年に「コスモノート ウラディミール・コマロフ」を建造しているが、こちらの名前の元になったウラディミール・コマロフは乗り組んだソユーズ1号が大気圏帰還時にパラシュートが開かず墜落死したという悲劇の宇宙飛行士で、「К・ウラディミール・コマロフ」完成時にはまだガガーリンが存命だったためにコマロフの名前がつけられたものと思われる(ガガーリンが飛行時事故で死亡したのは1968年)。
なお、К・ウラディミール・コマロフの時はパラボラが富士山レーダーみたいに球形カバーの中に収納されており、これはこれでファンタスティックな外観をしていたのが、К・ユーリ・ガガーリンではパラボラむき出しになっているのはカバーの抵抗によるロスが半端無く大きいとか、水平線上にК・ウラディミール・コマロフがぬっと出てくるを見た船員が海坊主かと思って腰を抜かしたとか、まぁ、そんな感じの不都合がいろいろあったのだろう。たぶん。

К・ユーリ・ガガーリンを始めとするソビエト衛星追跡艦隊はその役目をよく果たし、1975年にはアポロ=ソユーズのドッキングをサポートしている。
しかし、この米ソ宇宙船のドッキングに象徴されるよう、宇宙開発は競争から協調へと時代は変わっていった。
西側の天文台で通信を中継してもらえるようになれば、わざわざこんなオモシロ艦隊を遠路はるばる送り込む必要もなくなる。
1990年にソビエトが崩壊するとソビエト衛星追跡艦隊は黒海沿岸を母港としていたためにウクライナに移管されるが、ウクライナではこのような船の必要性を認めず、ほどなくして全ての衛星追跡船が解体された。

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こちらは組み立て説明書サンプル。
見よ! このソビエト科学アカデミーとOrel紙模型設計陣の技術の結晶を!
と言うか、このパラボラのトラスはカードモデルとしてどうなのよ。
このトラスを真面目に切り出してると人類が次のステージに進んでしまいそうなので、ポーランドGPMからはレーザーカット済みのオプションパーツも発売になっている。

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左がアンテナの部品、右は手すりの部品。アンテナ部品の右側にある折れ線グラフみたいな部品はどこにどう使うんだかもはや想像もできない。

また、Orelからはレーザーカット済み芯材用厚紙セットが同時発売となる。

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ちょっと過剰気味に見える隔壁数だが、実はこの船、旧日本海軍でいえば戦艦長門とほぼ同サイズなのでこれぐらい補強してもやり過ぎということはない。ちなみにこの大きさなのに、乗っているのは基幹要員160人と科学者180人に過ぎないが、どうやら母港を離れて長期間外洋で衛星追跡ができるよう、内部には乗組員のためにレクリエーションシステムやジムなどもあるらしい。ウクライナはホイホイと解体せずにこのまま客船にして「衛星追跡ツアー」とかやれば面白がって乗りたがる人も多かったんじゃないだろうか。少なくとも筆者は乗ってみたい。

Orelの新製品、とってもファンタスティックな外観のソビエト衛星追跡船 ”Космонавт Юрий Гагарин”は海モノ標準スケール200分の1で全長約1メートル15センチという大迫力のキット。難易度は3段階表示の「3」となっているが、オプションパーツなしでは難易度計測不能で難易度スカウターが爆発しかねないので注意が必要だ。
定価は1479ウクライナフリヴニャ。単純計算では約1万7千円というとんでもない値段になってしまうが、これはウクライナがインフレ気味なためで、GPMのショップでは200ポーランドズロチ、約6500円で販売している。
オプションのレーザーカットパーツはレーダーのトラス部品が150ズロチ(約5000円)、手すり部品が100ズロチ(約3300円)、芯材用厚紙が90ズロチ(約3000円)となっている。また、GPMからはトラス、手すり、芯材と本体がセットになった「コンプリートセット」を540ズロチ(1万8千円)で販売しているので予算に合わせて購入内容を検討したい。

米ソ宇宙競争華やかなりし頃の思い出ともいうべき当船は、宇宙開発史に興味を持つモデラーにとっては見逃すことができない一品と言えるだろう。
もちろん、単なるパラボラ超兵器ファンのモデラーにとっても当キットは見逃せないものであることは言うまでもない。
どうせならOrelはこのまま勢いに乗って、クリミア半島のプルトン・アンテナあたりをキット化してもらいたいものだ。



画像はGPM社ショップサイトからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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