Z-Art スロバキア古城 Oravský hrad

この間、「桜が咲いたよ、もう春だねー」みたいなことを書いたのに、今日は朝から寒い上にさっき雷が鳴ってて驚いた。
なんとも不穏な、いっそ不吉な予感さえさせる天気に乗じて、今回は少し怪奇色で彩られたキットを紹介しよう。
本日紹介するのは、チェコ Z-Art ブランドの新商品、スロバキア古城 Oravský hradだ。

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Z-Artは当コーナーでは初めて登場するブランド。来歴のページが見つからなかったのでわからないが、公式ページのマルC表記が2012年なのでブランドの旗揚げもおそらく同じ頃だろう。どうやらZdeněk Čechal氏一人で設計から販売まで全て行なっている個人ブランドのようだ。
チェコのキットはポーランドではキット化されていないユニークなアイテムも多いのだが、ポーランドに比べてネット環境が整っていないようで以前は公式ページが存在しなかったり、あったとしてもチェコ語のみというブランドが多かった。
しかし、ここ1~2年でチェコでも英語ページを備える公式ページが増え、また世界中のショップでチェコ製キットを見かけることも増えたように感じる。

さて、メーカーの所在地はチェコだが、今回紹介するこの Oravský hrad(オラヴァ城)はスロバキアにあるお城。
チェコ、及びかつてチェコスロバキアを形成していた隣国スロバキアは中世の城、要塞の多く残る風光明媚な国だが、オラヴァ城はスロバキアの幾多の城の中でも「最も美しい」と評される。
もともと、オラヴァ川を見下ろす岩山の上に小さな要塞が初めて建てられたのは13世紀。当時この辺りを領有していたハンガリー王国とポーランドとの交易ルートを東から侵入してくるモンゴル軍から守るために築かれたらしい。モンゴル軍はこんなところまで来ていたのか。世界帝国恐るべし。
その後、時代の変遷とともに要塞は城に拡大され、オスマン・トルコの侵入に備え整備されたり、火砲の発展とともに砲撃のためのプラットホームが増設されたりしたのだが、18世紀になると山城そのものが軍事的価値を失い、城は放置され荒廃していった。
1800年、原因不明の火事により城は全焼、完全な廃墟となる。しかし1860年代から歴史的建造物として再建が始まり1950年代に再建は完了、城は博物館となった。
現在は貴重なスロバキアの服飾、装飾などの民俗学的収蔵物が多数収められている。

それでは、ここでこの美しい城の全景を公式ページの完成見本で見てみよう。

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いやはや、よくもまぁこんな所に城を建てたもんだ。なんだか、「007」シリーズの悪役が本拠を構えていそうな雰囲気。
確かに防衛戦となれば相当堅牢な防御力を発揮するだろうが、「出撃だ」ってんで急いで階段駆けおりるだけでヘトヘトになりそうだ。
パッと見では、全長1メートルぐらいはありそうに見えるが、公式ページの情報では全体で50センチ四方に収まってしまうサイズだという。ホンマかいな。

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ユニークな全体のレイアウトだけではなく、各建物のディティールもなかなか細かく再現されている。「この場所に立つと、見える風景は……」と複雑なレイアウトを擬似観光するのも楽しそうだ。

ところで、このキットがなぜ「怪奇色で彩られたキット」なのかというと、実はこの城、1922年の怪奇映画「吸血鬼ノスフェラトゥ」で吸血鬼オルロック伯爵の城として撮影に使われたのである。
「ノスフェラトゥ」は世界初の吸血鬼映画として有名だが、実は最初はブラム・ストーカー原作の元祖「ドラキュラ」を映画化するつもりだったという。ところが、ストーカーの未亡人に「映画化したいです」と言ったら「ダメざんす」とのつれない返事で追い返された。ストーカー側ではちょうど舞台劇「ドラキュラ」公演の準備中だったのでほいほいと権利を切り売りするわけにはいかなかったのだ(当時はまだ「映画」が見世物的な低俗なものだと思われていたことも想像に難くない)。
原作者にあっさり断られてもドラキュラ映画を撮りたかったフリードリッヒ・W・ムルナウ監督はトンチを利かせ、「これはルーマニアに古くから伝わる吸血鬼『ノスフェラトゥ』の物語です。ドラキュラ? 誰、それ?」ということにして、映画を完成させた。従って、「ノスフェラトゥ」という怪物はこの映画の時に生み出されたもので、由来なんてものはありゃしない(もっとも、ストーカーの『吸血鬼』ドラキュラだって創作である。モデルとなったルーマニア貴族のヴラド・『串刺し公』・ツェペシュは実在の人物だが、地元ルーマニアでは革命で共産政権が崩壊し、西側の大衆文化が入ってくるまで『吸血鬼ドラキュラ』なんて誰も知らなかった)。

映画はアニメーションとの融合やオーバーラップなどの特殊効果を大胆に取り入れた手法が受けて大評判。スウェーデンでは「怖すぎるから」という理由で1970年代まで上映禁止だったぐらいだ。
しかし、ストーカー側はこのごまかしでは納得してくれなかった。結局、映画会社はストーカー未亡人に訴えられ、名前を変えただけなのがバレて敗訴。マスターフィルムは廃棄されたが、幸いにもマスターからの複製が密かに保存されていたために現代の我々も、この映画揺籃期の傑作を今でも鑑賞することができるというわけだ。

なお、「ノスフェラトゥ」に登場する吸血鬼はスキンヘッドの頭と尖った耳のネズミ的な容貌の持ち主だが、これはムルナウ監督が「危険な存在」として伝染病のペスト、そしてそれを媒介するネズミをイメージしたからだとも言われている。また、現在ドラキュラの一般的イメージである「襟を立てた長いマントを羽織ったオールバックのイケメン貴族」のスタイルは映画ノスフェラトゥと並行して製作が進んでいた舞台劇版「ドラキュラ」で造られたイメージである(こちらはベラ・ルゴシ主演の映画で有名となる)。
またノスフェラトゥは最後に日光を浴び、灰となって死ぬが、ストーカーの原作ではドラキュラは日光を浴びると力が弱くなるだけで死にはしない。吸血鬼が日光を浴びて死んでしまう設定はノスフェラトゥで生み出されたもの。あと、当然と言えば当然だが、当時の感度の低いフィルムでは夜間撮影はできないので、ノスフェラトゥの登場シーンも実際には全てお日様ギラギラの真昼間に撮影されている。

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小さくなったつもりでキットを低くから見ると、城の迫力はさらに増す。なるほど、言われてみればいかにも奥の方から吸血鬼の歩いてきそうな雰囲気だ。ちょっと垂直の怪しい部分も、「カリガリ博士」的ドイツ表現主義だと思えば味わい深いというものだ。

これからの発展が期待されるチェコの新鋭ブランド、Z-Artのスロバキア古城 Oravský hradはスケールは300分の1、難易度は5段階評価の「4」(難しい)、そして定価は410チェココルナ(約1900円)となっている。
当キットはヨーロッパの古城ファン、また怪奇映画ファンにとっては見逃せない一品と言えるだろう。

なお、時期にもよるがオラヴァ城では中世の騎士に扮しての剣撃の実演、各種演奏会などが行われており、夜間には吸血鬼に扮したスタッフの出没する「ノスフェラトゥショー」も行われているという。
スロバキアに観光に行く折には、是非ともルートに加えておきたいポイントだ。


画像はZ-Art公式サイトからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

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